楽山舎通信

わたじん8の日記です

2022年12月24日(土) 聖夜のメサイアと星野道夫写真展(前篇)

超弩級のクリスマス寒波がやってくるという、あまりうれしくない天気予報が流れるクリスマスの週末である。

朝起きたら、薄っすらと全てを真っ白に覆うぐらいには雪があり、今日は仕事しない土曜日ということもあり、小一時間は雪かきをしていた。

元々、東京に行く予定を組んでいたのだが、バッハ・コレギウム・ジャパンの聖夜のメサイアは午後4時サントリーホールなので、それだけならば午後イチぐらいに出ても間に合う。この雪は、南岸低気圧型ではないので、関東は青空が広がっているはずだ。

当初は、午前中に目一杯家事をしようと思っていたが、チェックしていた展覧会の中で、星野道夫の「悠久の時を旅する」だけは今年中に見ておきたいと思い、時間指定のチケットを購入していた。コロナ禍になり、人気の展覧会は事前予約制になり、前日に購入しようと思っても完売になってしまうものも少なくない。星野道夫だけは、私にとって外せない写真展だった。

恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で2時から3時まで写真展を見て、4時開演のサントリーホールに向かうという、スキのないプランニング。11時37分郡山始発の「なすの」か、一本あとの12時6分やまびこ56号に乗れば、プラン通りに動けると予定した。

二本松駅から在来線で郡山まで行く選択をしなかったのは、「雪による影響」で在来線のダイヤが乱れることを想定したからだ。新幹線で郡山駅まで帰ってきて、東北本線下りの接続が悪くて、寒い中待ち続けるのを避けたかった。帰りの新幹線が遅くなる場合は、駐車場代が無駄だと思わずに、郡山駅近くにクルマをデポするのが、私にとっては普通のことである。

ところが、4号線の渋滞が予定外だった。道路上に雪はないのだが、平日の朝よりも渋滞がひどく、ノロノロ運転。バイパス外れて旧国道で八山田トライアル付近の渋滞にはまったら12時6分にも乗れなくなると思い、「抜け道」の県道に逃げて、なんとか駅最寄りのビッグアイの立体パーキングへ。ところが、「空車」表示のここも予想外に混んでいて、6階までぐるぐる上がる。この時点で、12時を過ぎる。

「ああ、これは12時6分にも乗れなくなる」と、諦めかけ、12時6分に乗れないということは、星野道夫写真展の鑑賞を諦めることを意味するわけで、「もっと早く出ればよかった」と思いながらも、最後の5分にかけてみる。

ところが、渋滞中に新幹線チケット予約のために動かしていたスマホアプリの「えきねっと」に紐づけているカード情報が期限切れ表示になっていて、カード情報更新のためには、「ナンバーレス」になっているクレジットカードの情報を、別の場所から呼び出さなければならない。いや、そんなことしていると、5分以内で駅の改札を抜けるのは無理で、かなりしばらく購入したことのなかった券売機でチケットを買うことにするが、これはスマホアプリで乗車券買うよりも時間がかかる。ここで12時6分は過ぎてしまい、「あああ」となったが、それでも改札抜けようと電光掲示板を見ると、まだ12時6分発やまびこ56号の表示が消えていないじゃないか。全速力で構内をかけぬき、エスカレーターを駆け上がりホームに上がると、ちょうど「はやぶさグリーン」のノーズがホームに入ってくるところだった。

何という奇跡。

12時10分だ。乗り遅れたと思っていたやまびこに、乗れたのだ。自由席も満席に近かったが、2号車の前の方のD席が空いていた。席に着くなり、私は星野道夫のエッセイ集「旅をする木」を開き、パラパラとエッセイのタイトルを読みながら、東京に着くまでの間に読むエッセイをいくつか頭の中で選び、ふりだしの「新しい旅」のページを開き、星野道夫の世界に入っていった。

この新幹線に乗り遅れていたら、えびすで写真展を鑑賞する時間は無くなって、せっかく持ってきた「旅をする木」は予習本として役に立たない本になっていたけど、4分遅れという偶然が、私と星野道夫をつないでくれた。

そんなことを思いながら、「もし人生を、あの時、あの時・・・とたどっていったなら、合わせ鏡に映った自分の姿を見るように、限りなく無数の偶然が続いてゆくだけである。」という文字を見たら、涙がでてきた。星野道夫は、偶然の連なりを自ら引き寄せて、「アラスカ」という悠久の大地の語り手となるのだった。

私達は、自分では絶対に見ることのできない、壮絶な自然環境の中にある生命の姿を、星野道夫という語り手の、「生命」への深い愛情の元に、目にすることができるのである。

東京駅の雑踏は凄まじいものがあり、小一時間の「旅をする木」の世界からのギャップは大きかったが、そのギャップこそが、「もうひとつの時間」を想像するための、重要な要素でもある。12月24日土曜日という、きらびやかで華やいだ時間に、アラスカのどこかでは、シロクマが獲物を探し、いやあるいは、動きの取れないブリザードの中で、死んだようにじっと時が過ぎるのを待っているのかもしれない。時空を越えた想像力に働きかける力こそが、写真の力である、と言っても良い。

山手線の恵比寿駅から恵比寿ガーデンプレイスにつづく恵比寿スカイウォークの混雑ぶりは、これから星野道夫の写真を見に行く「自然派」の人たちには、たぶん場違い的な空気感で埋め尽くされていたが、「歩く歩道」で動かされるのじゃなくて、自分の足で自分のペースでスカイウォークをあるくだけでも、ちょっと気分は違う。

 

(テレビでアルゲリッチ&フレンズが始まったので、とりあえずここで一端アップしておく)