2022年のベストアルバム 2022に購入したCDから
2022年に購入したCDアルバムは、30枚。
タワーレコードオンラインで22枚購入。HMV(ローソンWEB)で7枚。コンサート会場で1枚。無料ダウンロードはカウントせず。
クラシック系が15枚。ジャズ系が8枚。現代音楽系が7枚。
アーティスト的には、チック・コリア関連とヨハン・ヨハンソン関連のアルバムが複数含まれるが、これは、2021年2月9日に亡くなったチックと、2018年2月9日に亡くなったヨハンーーあ、奇しくも命日が同じ2月9日ーー亡くなった後で、企画されたアルバムとか紹介されたアルバムが多く出てきたため。
購入したアルバムの中から、2022年のベスト・アルバムを選ぶにあたり、2022年発売という条件をつける。すると、対象は一気に減って14枚。2023年の1月3日購入の「ライヒ・リヒター」は、2022年発売で割と象徴的でもあるため、ギリギリ2022年購入分に入れた。
スティーブ・ライヒとゲルハルト・リヒター。2022年に見たゲルハルト・リヒター展覧会での、なんとも強烈な組み合わせ。マストバイ。
私が持っているCDの7割を締めるジャズ・インスト系アルバムは、ここ数年厳選して買うようになり、自分でも信じられないくらいにクラシック系のアルバム買いが先行してきた。
2022のジャズ系アルバムの中では、ロバート・グラスパーの「ブラックレディオ・3」、ブラッド・メルドーの「Jacob's Ladder」は、個人的に外せないアルバムだった。ミカ・ストルツマン(吉田ミカ)等の「スピリットオブ・チック・コリア」も、チック・コリアファン的に外せない。珍しいところでは、フランチェスコ・トリスターノ。角野隼斗(すみのはやと:今最も注目すべき若手ピアニストの1人)との共演で知ったクラシック系ピアニストだが、クラシックとジャズの間に垣根を持たずに、特にバッハに精通する。ブルーノート東京での角野隼斗とのピアノデュオが、一際印象深くてアルバム買い。バッハを独自の解釈でひきこなす。
バッハということになると、ジャズピアニスト、ブラッド・メルドーも2018年に「アフターバッハ」という、衝撃的な作品をリリースしている。
バッハの現代的な解釈、というか編曲で、様々な作品が出てきて、ヨハン・セバスチャン・バッハの音楽が持つ懐の深さみたいなものに、あらためて驚くのだけれど、私が今年の年間ベストに選ぶのも、実はバッハ。
何度聞いても大好きなゴルトベルク変奏曲を、特殊な編成のトリオ用に編曲した作品。
そのCDのタイトルは、「J.S.Bach The Goldberg Variations」で、その詳細までチェックしないと、購入までの道のりは、なかなかに長い。というよりも、ラジオで聞いてから「え、なにこれ?」となってCDを買う、という人が少なくないはずだ。聞かなきゃわからない。クラシック音楽だけど、聞いたことのないクラシック。
私がこのCDを手にしたのは、2022年8月24日に、地元の二本松コンサートホールで開催された、「真夏のヴィヴァルディ」というコンサートでのこと。
このCDで演奏している、佐藤芳明さんと新倉瞳さんが登場したコンサートで、他にバロックチェロの懸田貴嗣さんが演奏していた。地元出身の懸田さんのCDはすでに持っていたということもあり、「ちょっとこれはずごいぞ」という思いで三角形の印象が強いゴルドベルクを購入。
会場のホワイエでCD買う時に、「サイン会はないの?」と半分本気で、会場で販売係していた同級生(演奏者の姉)に聞いたりしてみた。うーん、この購入にも、一言では語れないドラマがあった。この1枚(2枚組)だけは、ネット買いじゃなかった。それがいい。ネットでCD探して買える時代、あるいはサブスクとかダウンロードの時代に、コンサート会場で並んで買う、ということは、私は普通は絶対ないのだが、サイン会付きだと話は違うかもしれない。まあ、コロナ禍のコンサートでは難しいが。
さて、このCD。
演奏する楽器は、バイオリン(原田陽)、ヴィオラ(新倉瞳)に、アコーディオン(佐藤芳明)である。
トリオ編成のバッハ・ゴルトベルク変奏曲で、「アコーディオン」という楽器が入ることを、「あり」と思うか、「そんなんあらへん」と思うかで、聞く人が振り分けられる気がする。
私の場合は、ゴルトベルクといえば、「当然」グレン・グールドで、長く聞いているのはグレン・グールドかチェンバロで演奏しているキース・ジャレットか、のどちらか。ラジオやテレビで、たぶんいろいろな編成を耳にしているとは思うけれども、グレン・グールドとキース・ジャレットのゴルトベルクの印象が強すぎて、抜けきれずにいた。
今年、2023年1月6日のNHKFM「クラシックカフェ」の朝の方(再放送)で、通勤途中のクルマで流れてきたのが、この、なんとも風変わりなアコーディオン入のゴルトベルクだった。風変わりといいつつも、妙に古楽の真髄のような「古き良き揺らぎ」があった。
FMで、この特殊編成のゴルトベルクが流れたことは、ツイッター上にも流れてきて、なんと、アマゾンの「室内楽 器楽曲」カテゴリー売上で、このCDが1位になったとのこと。
余談だが、私は、年末年始に鬼のようにNHKFMを聞いていた。二本松から伊勢・尾鷲方面へのお一人様マイカー往復で、1600キロの長距離ドライブしてたので、ネットラジオ「らじる★らじる」の聞き逃しにあった「クラシックカフェ」と「ベスト・オブ・クラシック」の番組は全部聞いた。しかし、これはその時の「聞き逃し」になかったので、「あれ?、1月6日の放送は、本放送はいつだったの?」と思ってクラシックカフェの過去放送ページを探ると、本放送は2022年10月11日。これは、本放送を聞けていなかったのか。チェックはしていたと思うが。ということは、反響の多かった放送の再々放送だったのか。この放送は最初から最後までチェックできずに、聞き逃しもなくて残念だったが。
そして、これはCD持っているじゃないかと、そこで思い出した。
そう、CDは買って持っているのに、再生回数が少ない。それには理由がある。
購入した当初、このCDをパソコンに読み込ませると(CDはPCかIPhone経由で聞くのがデフォルト)、インターネット上に情報がなくて、CDタイトルも曲名も出ず、トラックごとに読み込んでしまうために、連続で聞かないと意味がないゴルトベルクを、連続再生することさえ難しかった。この時点で一旦はお蔵入り。
しばらく置けば、ネットに情報上がるかもと思い、その後も次々と音楽をめぐるドラマは展開し、忘れた頃に流れてきたのが、1月6日のFMだった。
今度はどうかと思い、PCに読み込ませると、やはり情報が出てこず、一枚の「アルバム」として認識されない。そこで、PCが読み取る前の段階で、アルバムの情報を手動で打ち込みしてから読み取りを開始、さらにアルバム情報の「アートワーク追加」でジャケット写真を入れて、やっと普通にPCやiPhoneで聞けるようになった。
前置きが長くなってしまったが、そんな手間のかかる、しかも年内にほとんど聞いていない2枚組のアルバムが、私の年間ベストなのであった。公式なランキングなら、クレーム来そうだが。まあ個人的趣味の話なのでご勘弁。
これまで聞いてきて、それが当たり前と思っていたピアノやチェンバロのゴルトベルクからすると、弦楽器とアコーディオンによるゴルトベルクは、音の「揺らぎ」とハーモニーが実に絶妙で、その揺らぎがもたらす音の豊かさが、なんともたまらなく絶品の味わいだった。アコーディオンという楽器が、古楽の演奏の中で、それが昔からあった編成のように、亜流じゃなくて正統派の本流としてしっくり感じるのは、自分としては不思議な気がした。正統派を思わす、この「音」まで作る上げるには、しっかりしたベースの上に乗せる、旺盛なチャレンジ精神が必要なはずで、確かな技術とアレンジ力、そしてバッハの音楽そのものを、自分たちの音楽として楽しむ気持ち、がどれだけ大事かということが、音楽の中に見えた。
編曲者の原田さんがライナーノーツで、「もし現代にバッハがいたとしたら・・・・それをちらっと聴いた彼に「それも悪くないね」と言ってもらえたら嬉しいなあ」と書いているが、これはほんとうに、「あり」だと思うし、こんな素晴らしい編成が、今までなかったことが不思議という気がした。
バロック演奏家というと、なんだかお硬い感じがするわけだけど、この「ゆがんだ」人たちは(失礼ながらも、ライナーノーツで自分で言っているので)、バッハの音楽を、21世紀流の新しい味付けにしながらも、不思議とそれが、バロック時代や中世時代の、ヨーロッパのストリートで流れているかのような親近感を生み、踊りたくなるようなゴルトベルクにしてしまった。ほんとうに、こんな音楽が、しかもあのバッハのゴルトベルクがあったのだ、と嬉しくなった、未だパンデミックの2022年であった。