2020年4月25日放送のETV特集「パンデミックが変える世界」ユヴァル・ノア・ハラリへの60分インタビュー。
この番組で、ハラリさんが強調していたのは、この事態における政治の役割と、市民の選択の重要さ、独裁か民主主義かの分かれ目にある国家観だろうか。
番組の冒頭で、パンデミックの2つの危険性が指摘された。
ひとつは、発展途上国がどうなるか。先進国はこの危機を乗り越えることができるだろうが、パンデミックは極めてグローバルな問題であり、発展途上国を置いてきぼりにしてはならないという話だ。
もう一つは、ウイルスの突然変異による、第2波の到来。事は単純ではない。
「この危機が終わっても、もとには戻らない。何かが進歩すれば、何かが危機にさらされる。」
このパンデミックが、歴史的に見て、どのくらいの出来事なのかを、私たちは認識せざるを得ない。全ての価値観をひっくり返す出来事なのである。
この中で、ハラリ氏は政治状況に焦点をあてるべきと警告する。
いま、政治家は、経済・教育システム・国際関係のルールを、根本的に書き換えるチャンスを握っている、とする。
「パンデミックは、世界の変化を加速する。そのあとには、新しい秩序が定着する。新しい秩序が定着した時に、現在の決定を変えることは非常に難しい」
政治家のパワーが一層強まり、個人の自由を制限できるようになる。国家によっては、民主主義の危機的状況に追い込まれている。政治をチェックする能力と、バランス感覚が必要である。
とりわけ進むのが、「監視社会化」。
テクノロジーの進歩により、政府が個人の移動履歴などのプライバシーに立ち入ることが、いつの間にか可能になっている。
個人の移動を制限し、誰がどこにいて、誰とあっているかが個人個人の位置情報や監視カメラの情報を集積することで、わかってしまう。監視社会への、入り口にいる。
しかも、これからの監視は、皮膚の外側だけではなくて、皮膚の内側にまで入り込む。何を考えているか、本当はどう思っているかなど、自分さえ知らない自分の内側にまで、AIが入り込んでくることが可能になっている。それによって、個人が他者にコントロールされるリスクもある。
そのリスクを乗り越えるために導き出されるのが、エンパワーメント。
ひとつ、私(個人)が、自分の健康状態に関するデータにアクセスする権利が与えられるべき。
データは透明で、監視は双方向であるべき。
このような情報にアクセスできれば市民はより大きな力を持つことができるというわけです。
十分な知識を持ち、自分で判断できる国民は、警察に支持されるだけの国民より遥かに効果的です。
アメリカ・ファーストのトランプ氏。リーダー不在の国際状況の中で、世界的な団結を期待するハラリ氏。
危機が過ぎた後の世界にも、良い影響を与えるためにも、世界的な団結は必要。
「戦争や戦い、勝利といった例えは、使うべきではない」
「世界中の人々をケアし、さらに経済的苦境から守ることが出来たら、それが「成功」でしょう。
自国の人だけを守って、他の国が崩壊してしまったら、私はそれを成功と呼べません。」
ハラリ氏は、トランプ大統領がWHOへの資金拠出を止めた日に、個人で100万ドル(1億1千万円)をWHOに寄付した。
「何億もの人々が職を失っている時、暮らしに困らない者は、物惜しみすべきではない」
「パンデミックの中で同胞を救おうとしたら、国際的な協力を選ぶほか、道はない。」
結末を選ぶのは私たちです。
「もし、自国優先の孤立主義や独裁を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら、それは歴史的な大惨事でしょう。
多数の人がなくなり、経済は危機に瀕し政治は大混乱に陥ります。一方でグローバルな連帯や民主的で責任ある態度、科学を信じる道を選べば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても、後になってみれば人類にとって悪くない時期だったと思えるはずです。私たち人類は、ウイルスだけでなく、自分たちの内側に潜む悪魔を打ち破ったのだ。憎悪や幻想・妄想を克服し、真実を信頼して、強く団結した種になれた時代と位置づけられるはずです。」
「オープンな心で状況を科学的理性的に見つめれば、きっと出口はみつかるはずです。」
協力と連帯。
道が見えているならば、世界中がそっちの道を選べば良いのである。
この責任は、国家や自治体のリーダーにももちろんあるが、市民一人一人の選択が、人類の未来を決定する。
そんな瞬間に生きていることを、痛切に感じる話であった。